第4章 君と笑顔の花を咲かせたくて

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 空の高さと水と空気の味は違うけれど、どこか懐かしい場所。懐かしいと感じさせてくれるもので溢れている異国の、この街にほれ込んで、私はここで子供を育てることに決めたのだ。  ぎりぎり三十前に出産できて嬉しい。平屋で広めの家の半分はガラス張りで、日差しが強いときは内側のロールスクリーンを降ろす。  スクリーンには私が撮影した風景や、手掛けた絵画をプリントした生地を使った。  画商として頑張ってくれた真央ママのおかげで、こんな立派な家を買えたことを幸運に思う。絶えず依頼される人気絵師になれた私は、人の手を借りて順調に生活基盤を整えつつある。  語学力がまだ不安なところもあるけれど、英語が完璧じゃなくてもわかってくれようとする気持ちのおかげで、不自由なことは少ない。ここ最近ではマーガレットなしでも外出できるようになって、桜亮とふたりでスーパーに買い出しするのもすごく楽しい。  広い道路を走行しながら、バックミラーで息子の様子をみるとウトウトしていた。眠った顔が燿馬そっくりで、本当になんて可愛いんだろう。  ベビーカーに乗せるとき、小さな体がとても熱く感じた。手をあてると今、用を足したところみたいで、眠りながらもホッとしたような表情をする。荷物のなかから紙おむつを出して、きれいにしてあげる。彼は気持ちよさそうにぐっすり眠りこけていた。  広い駐車場を進み、倉庫みたいなスーパーに入っていく。まだ春先の寒い季節がら、多くの人は毛糸の帽子をかぶっていて、色とりどりのボンボンが右往左往していた。  サーモンの塊とサラダ、それに生クリームたっぷりのケーキも買う。日本米と料理用のお酒、色んな種類の香草が混じった塩とバター、クリームチーズも忘れずに。フルーツは林檎とオレンジ、レモンをカートに入れた。  クレジットカードで会計を済ませ、紙袋に入れられた荷物をカートに乗せ、ひとつを脇に抱えて歩き出す。家族でショッピングを済ませた人々が、出口付近でクラムチャウダーを食べながらおしゃべりに花を咲かせていた。
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