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用意された場所に座らされて、真央さんの手に誘導されながらお花に触れる。指先から、すぅーと冷たいけれど柔らかくて優しい感触が伝わってくる。つるりとした触れ心地の、ほそながい茎。僅かに産毛らしきものを感じて、脳裏には先端に花開くガーベラが浮かんだ。
「これは、ガーベラですか?」
「ええ! そうよ! すごいじゃない! 流石ね、恵鈴ちゃん」
真央さんは心の底から感動したような、驚きと喜びの声をあげた。その途端に、目の前の暗闇が明るくなった気がして、私も嬉しくなる。
「色も、当ててみる?」
「…え、あ、はい」
私は花が傷付かないように、指先でそっと花弁に触れた。また脳裏に風景が、見える。
「……これは、オレンジ色?」
「正解!! じゃ、これは?」
持ち替えられた花に触れた途端に、頭の中のガーベラが色を変えた。
「…濃い、ピンク色でしょうか」
「お見事! 本当に、見えてるみたいね」
真央さんはそう言いながら、次の花を渡してくる。今度はもっと硬くて細い、茎。それに、すぐにも折れてしまいそうな小さな枝がいくつも…。
ママがよく、みっちゃん(祖母)のお仏壇に供える花が浮かんだ。小さな花が沢山咲いて、見る者の心を落ち着かせてくれる。
「…これは、カスミソウですね?」
「そうよ! 今日の花は、ありきたりな切り花しかないんだけど。お部屋に飾るから、手伝ってくれる?」
「はい。喜んで!」
並んでいる花瓶に触れると、肌触りでガラス製だとわかる。真央さんが花を切る音をさせ、私はガーベラとカスミソウを組み合わせて花瓶にさしていく。
ふと、小さな声らしき音が聞こえた気がして、手を止めた。
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