第1章 花はなぜ枯れるのか

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 用意された場所に座らされて、真央さんの手に誘導されながらお花に触れる。指先から、すぅーと冷たいけれど柔らかくて優しい感触が伝わってくる。つるりとした触れ心地の、ほそながい茎。僅かに産毛らしきものを感じて、脳裏には先端に花開くガーベラが浮かんだ。 「これは、ガーベラですか?」 「ええ! そうよ! すごいじゃない! 流石ね、恵鈴ちゃん」  真央さんは心の底から感動したような、驚きと喜びの声をあげた。その途端に、目の前の暗闇が明るくなった気がして、私も嬉しくなる。 「色も、当ててみる?」 「…え、あ、はい」  私は花が傷付かないように、指先でそっと花弁に触れた。また脳裏に風景が、見える。 「……これは、オレンジ色?」 「正解!! じゃ、これは?」  持ち替えられた花に触れた途端に、頭の中のガーベラが色を変えた。 「…濃い、ピンク色でしょうか」 「お見事! 本当に、見えてるみたいね」  真央さんはそう言いながら、次の花を渡してくる。今度はもっと硬くて細い、茎。それに、すぐにも折れてしまいそうな小さな枝がいくつも…。  ママがよく、みっちゃん(祖母)のお仏壇に供える花が浮かんだ。小さな花が沢山咲いて、見る者の心を落ち着かせてくれる。 「…これは、カスミソウですね?」 「そうよ! 今日の花は、ありきたりな切り花しかないんだけど。お部屋に飾るから、手伝ってくれる?」 「はい。喜んで!」  並んでいる花瓶に触れると、肌触りでガラス製だとわかる。真央さんが花を切る音をさせ、私はガーベラとカスミソウを組み合わせて花瓶にさしていく。  ふと、小さな声らしき音が聞こえた気がして、手を止めた。
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