第3章 誰かのために生きるということ

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「どうもお前は、物事に対して異様なほど前のめりになるところがあるよな。そんなんでよく今まで、大怪我せずに生きてきたな……。大丈夫か?」  飯島部長が心配そうに俺を眺めている。面倒見の良い部活の先輩みたいな、顔をしている。 「…彼女を追い詰めたのは、俺なんです」  つい、口から零れた。すると、大人達は我こそはと前のめりになると、皆それぞれのやり方で「それは違うと思う」「お前はどんだけ自意識過剰なの?」「思うことと、行動が伴ってないぞ。大丈夫か?」などと、俺の言動を否定した。 「俺はお前の嫁さんを知らんがな。普段のお前を見ていると、追い詰めるタイプには全然見えない」 「まぁまぁ、話を聞こう。最後まで」  大原さんの突っ込みを、飯島部長が遮って俺を促す。 「あー、追い詰めるって言っても、俺の場合は自分都合でしか考えてなかったっていうか…。気を遣わせているのに、気付かないふりをしてたかもしれなくて、彼女もバカみたいに真面目で責任感が強い性格で、小さい頃から俺はそんな彼女に守られていて……」 「良い子じゃないか。お前、その子とはずいぶんと長い付き合いだったんだな?」  飯島部長の言葉に、俺は少し照れながら頷いた。 「付き合いが長ければ長い程、優しさが当たり前になっちゃって、ありがとうを伝えてもどこか飾りみたいな気がしませんか? どうしたら、感謝の気持ちが伝わるんだろうってずっと、わからなくなってて…」  恵鈴の努力に対して、俺がこれまで伝えてきた言葉はどれも表面的な味気ないものだったようにしか思えなくなってくる。形式だけの挨拶と同じ。作り笑いの営業スマイルと、同類。
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