第3章 誰かのために生きるということ

18/51

1028人が本棚に入れています
本棚に追加
/134ページ
「幼馴染……というか、きょうだいのような仲でした。小さい頃から良く知っているんです」  「灯台下暗しだな」と、北野部長が合いの手を入れる。どういう意味だろう?  俺は不思議に思いながらも、話をつづけた。 「彼女は、生まれつき目が悪くて。将来、失明するかもしれなかったんです」 「失明? …どうなったんだ?」  大原さんが食いつく。 「それが、俺の知らない間に失明していたらしくて…」 「どういうことだ?」  飯島部長が目を見開いて、詰め寄ってきた。酒の匂いがする。 「彼女には、絵を描く才能があったんです。それで、物を見る目が普通のひとよりも鋭くて記憶力も良い…。なので、俺はすっかり騙されていました。自分の家の中のことは全部、記憶しているおかげで動きに違和感が無かったんです。だから、一緒に居ても全然気付けなくて…」  言いながら、本当にそうだろうかと不審に思う自分が顔を出す。恵鈴は体調が優れないと言いながら、以前ほど部屋を隅々まで掃除しなくなっていたし、買い物にも自分で行かなくなっていた。俺にメールで指示を出していたじゃないか。  ―――そうだったのか。 「あ。いや……。彼女は、SOSを出していたかもしれない…、でも俺と来たらそんなことに気付いてやれないぐらい、仕事に目が行き過ぎていた……」 「おいおい、落ち着け。東海林」 「スケジュールを確かめ合うのもいつの間にかしなくなってたし、いつだったか病院に行くって聞いてからその後どうなったのか、聞いた覚えがない…」  自分の落ち度が視え始めると、俺は途端に息苦しくなってめまいを覚えた。過集中モードは恵鈴だけに起こるわけじゃない。俺だって、それで散々失敗を経てきているくせに、自分は違うなんて勘違いも甚だしい。穴があったら入りたいぐらい、恥ずかしいし情けない。  なんだかんだ言ったって、俺達は双子。親父に似て、夢中になったら周りが見えない。おふくろだってどこか普通じゃない。恵鈴だけが特殊なわけじゃない。短い期間に凄い作品を描く恵鈴を基準にすると、自分は平凡だと思っていただけで、実際は俺も世間一般の感覚からズレている。 「…飯島部長。大原さん。俺って、なんか変ですか?」
/134ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1028人が本棚に入れています
本棚に追加