第3章 誰かのために生きるということ

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 私達はいま、アメリカ西海岸の北に位置する都市にいる。大陸の端から端までの移動に、何度飛行機に乗ったか知れない。  乾燥してさっぱりとした空気は快適で、日本とは何もかもが完全に違う。あらゆるものが大きいし、広いし、色鮮やかだし、食べるものも大雑把で素朴だなぁと感じた。 「いくつになっても新しいことを初められるし、やるなら新しい刺激を受けてみるべきよ。私もアメリカで転機を得られたの。恵鈴ちゃんにも体験させてあげるわね」  真央さんは、一度こうと決めたら諦めない人だってママが言っていたことを思い出す。一般常識に囚われない自由な発想と迅速な行動力。北海道でのんびり育った私には、神がかって見えた。  私のパスポートを取得するのも素早かった。思いがけない提案を受けて、私は真央さんの娘になったことを、意外にも北海道の両親はすんなり了承し、沢山の手続きを同時進行に済ませてしまった。さすがはビジネスウーマン。 「風景画、描いてみない?」  真央さんに勧められて、私は一眼レフカメラのファインダーを覗いている。切り取った風景にタイトルを付け、保存していく。  画商としての真央さんのプロデュース力にグイグイ引っ張って貰ってばかりの日々だ。  この旅の間に私は沢山の宝物を手に入れているのだ。  私は蒼井恵鈴として、再出発する。 「ねぇ、次はどこに行きたい?」  サンドイッチを食べ終わった頃合で、真央さんが私の肩を、腕で押してくる。気さくで飾らない真央さんのペースにもやっと慣れてきたところだ。  
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