第3章 誰かのために生きるということ

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 出国前、真央さんが言っていたことばを噛みしめる。 『人は結局、孤独な生き物なんだと思うの。でもね、その孤独を深めるからこそ本当の意味で強い絆をむすべるようになっていくのだと思う』  強い絆で思い浮かべるのは、やっぱりパパとママしかいない。私は心の底からあのふたりが羨ましいと思ってしまう。あんな風になりたい。あんな風に、歳を重ねていきたい。  没頭してから時計に目をやるまで、無心だった。脱力感に襲われ、這うようにテーブルに戻るといつの間にか夜食のサンドイッチと魔法瓶にはスープが入って用意されていた。  真央さんのサポート力は本当に凄い。全然、気付かなかった。  関節がきしんで、椅子に座る前に軽いストレッチをする。肩も凝っている。あぐらをかいて前のめりの姿勢を続けたせいで、脚全体が痺れて冷たくなっていた。もう、今日はこの辺で休もう。  サンドイッチをひときれだけ食べ、スープを完食し、這うようにバスルームへと向かう。熱いお湯をバスタブに注ぐのを眺めながら、溜まっていくお湯のゆらめきを眺めた。すると、今度は突然涙が込み上げてくる。  燿馬は今、どうしているんだろう。なぜ、彼はここにいないんだろう。  離れてみて、案外平気なんだと思ったりしたけど、結局私は 「燿馬に会いたい……」  膝を抱えて、泣き出していた。  自分の脚で歩けるように、一人前の画家になれるまでは、世間に蒼井恵鈴を認識してもらって、そこから燿馬とふたりで新しい人生を……。  ―――なんでこんなに遠回りしなければいけないんだろう。  自分で始めた人生改造計画の途中なのに。まだ、私も燿馬もなにも成し遂げていない。大きな仕事をやりとげ、自分に自信を持てたら、きっと明るい日差しが降り注ぐ場所をふたりで堂々と歩けるようになれる。  どちらかが犠牲になる人生じゃ、ダメなの。どっちも輝かなくちゃ意味がないの―――。  ―――燿馬はどう思っているかな。怒ってるんだろうな……。
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