第3章 誰かのために生きるということ

29/51
1028人が本棚に入れています
本棚に追加
/134ページ
 心の中から完全に燿馬を締め出すことなんて、できない。  彼から離れられたら、別の男の人を意識するようになるんじゃないかという不安と期待があったけれど、今のところそうした変化は起きていない。  私はこの先もずっと、これまでと同じように燿馬だけを愛することしかできないのだろうか。  たったひとりの人を愛することは、傍目から見ればきっと素敵なことだと思う。でも、本当にそれで良いのかな。  それで満足して良いのかな?  同じ魂からふたりに分かれた私たち。自分自身を愛せよ、という思いなのか。それとも、もっと外に向けて生きていけという意味があるのか。  田丸燿平。あなたは、どうしたかったの?  私たちになにをさせたいの?  どうしてふたりになったの?  ―――教えて。      ◇  「どうしてこんなことになってんだよ?!」  『落ち着いて、ようちゃん』  携帯端末の表示は人間をかたどった味気ないシルエット。でも、今俺と話をしているのは、おふくろだ。開口一番に出てきた言葉は、本心からのものだ。  恵鈴がいつの間にか、我が家の籍から出て蒼井家の人間になっていた。  何の相談もなく、そんなことをされたら、俺はもっと……。  ……もっとつらくなる。  なのに、俺抜きで大事なことをどんどん進めていく恵鈴も真央さんもおふくろや親父も許せなくて。あてがわれた個室のベッドの上に胡坐ぐらをかきながら、気付いたら俺は実家に電話をかけていた。
/134ページ

最初のコメントを投稿しよう!