第3章 誰かのために生きるということ

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 作業用スペースの台に、印刷した図面を見ながら必要なパーツの線を引く作業に入った。鉛筆を何本も削って、定規の汚れを定期的にふき取り、カッターの切れ味に注意を払い、基礎部から室内の壁、設備品をイメージした箱型のものを設置して、下から上に向かって建物そのものを再現していった。つまようじや綿棒で紙工作用ボンドを使い、親父がしていた通りの工程をなぞっていく。  休憩も忘れて作業していると、後ろから突然声が上がった。 「うわぁ……! 速いな、お前」  飯島部長だ。隣には大原さんもいて、驚いた顔をしている。 「まだ月曜だぞ。模型まで進んで…、まだ図面チェックもしてないのに…」 「あ!!」  しまった! 図面を見て貰ってもないのに。すっ飛ばしてしまった。  だけど、大原さんは笑って言った。 「蔵ちゃんにデジタル立体模型作るようにお願いしてたけど……、そんなにお前が模型作りが好きだとは知らなかった」  お俺はへこへこ頭を下げながら、「すいません! 勝手なことを…」と謝る。 「こいつはいま、これぐらい没頭できる方が都合が良いんだよな? なぁ? 東海林。こっちはこっち、デジタル化は蔵本にそのままやってもらおう。出来栄えを比較するのも面白い。設計者は東海林なんだし」 「設計図面はもちろん、手を加えさせてもらいますよ。会社の看板背負ってるんだから、中途半端なものはとことん手を入れさせてもらいます。東海林だけの手柄じゃない。チーム皆でやらないと」  大原さんはチーフだ。 「良いだろう。じゃ、東海林。今日はもう片付けて、ほら。もうすぐ七時だ」  俺は時計を見て、驚いていた。午後からぶっ通し七時間近くもこれしか見えていなかったことになる。これじゃ、まるで恵鈴だ。以前の、獲りつかれたようにして絵を描く恵鈴の後頭部を思い出す。つーんとのどの一番奥の方が、傷んだ。
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