案外それも、悪くない

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「入学式が嫌なの?」 「………そうじゃないけど」 「じゃあ、早く行こうよ ほんとに始まっちゃうよ」 「あたし帰る 入学式には出ない」 「おばさん達が心配するよ」 「…………………………」 僕の両親も彼女の両親も、既に入学式が行われる体育館で、入学式が始まるのを今か今かと待っているはずだ。 そんな中、自分たちの娘の姿がなければ心配するだろう。 「どこか痛いの?」 膝を抱えて丸まったまま、首を二回、横に振る。 「なら、何が嫌なの?」 「…………………笑わない?」 体を丸めているからか、くぐもった声が返ってきた。 「うん、笑わない」 「…………………………………」 僕は幼馴染みの顔を覗き込むようにして、出来るだけ優しい声で答えた。 「………………………………、前髪」 「前髪?」 結構な沈黙の後、やっと返事が返ってきた。 けれど、それは僕にとっては意外なものだった。 「前髪がどうかしたの?」 「切るの、失敗した」 「え」 ふてくされたみたいな言い方をして、幼馴染みは更に体を丸めた。
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