第1章

2/125
前へ
/125ページ
次へ
栗栖湖。 それは森林に囲まれた自然豊かな湖だ。 一番近い民家でも数十キロは離れており、ネットも電話もつながらない陸の孤島である。 満月が明るく地面を照らす13日の金曜日。 栗栖湖の側にあるキャンプ場で、3人の男女がたき火を囲んで談笑していた。 「この前さ。彼女と同棲することになって、それを機に引っ越したんだよ」 「知ってるよ。誰が手伝ったと思ってるんだ」 話し手の男は茶化されて苦笑する。 そんな彼氏の腕に、隣に座る彼女が笑いながら抱きついた。 「でね。どうせなら電子レンジも買い替えようってなって、少し高いやつを買ったんだ。これがすごいやつでさ。色々な機能があるんだけど、ボタンを押すと、それがどういう機能なのかを喋ってくれるんだ。電子レンジがだぞ?」 「まあ、最近はスマホも喋る時代だからな」 「電子レンジの下の部分に液晶画面があって、そこに人の横顔のマークがあってさ。口が開いた部分に声の大きさを表す棒線があって、そこで音量を調節するんだ。んでな? ある日、大学から帰って来た時に、なーんか台所の方が騒がしくてさ。彼女が帰ってるのかな? と思って台所に行ったんだよ。そしたら彼女が電子レンジに向かって、『600ワット3分ー?』って言ってて。顔のマークを音声認識マークと勘違いしたんだって」 それを聞いて、彼らは爆笑した。 隣にいた彼女が、顔を真っ赤にして彼氏の肩を叩いている。 「んじゃ、次はオレか」 キャップを被った男が、ごほんと咳払いし、真剣な表情になった。 先程までのへらへらした態度とまるで違うので、思わず全員が黙り込む。 「実はな。このキャンプ場って、呪われてるんだよ」 突然、キャップの男はそんなことを言った。
/125ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加