いちばんのりの、女の子

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 男は下を向いて、大きいけれど細い体で雪道を歩いて、気が付いたら、足跡の方向をじっと見つめていた。そして、それを辿っていた。冷たい夜の空気を吸うと、鼻がツンと痛む。それでも、小さな足取りは軽く見えた。男は真似して、ちょっとだけスキップしてみた。どすん、どすん。…違う。もっと、そうそう、この粉雪みたいにふわふわって……  ちょうど雪が降り始めた頃、男は試行錯誤を繰り返して雪の上を飛んだ。小さな足跡が、少しずつ新しくなっているのが分かった。  チリン、チリン…  あっ、この音はなんだろう?  何もかもが初めてで、少しばかり老いた男は息を弾ませながら耳を澄ませた。正面の、暗闇の方向から、熊避けの鈴よりも軽やかで甲高い音色が聞こえてきていた。  チリン、チリン…  男は音を立てて走り出しそうになるのをぐっと堪えて、抜き足差し足で小さな足跡を塗り替えた。  規則正しく鳴る鈴の音は、まるでこの森の昼間、鳴き出す鳥達の声の様。男は体を揺すって、目を閉じて、音をゆっくり追いかけた。鈴の音は、着実に近くなっている。  すると次第に、さくっ、さくっ、と、軽やかな足音も聞こえてきた。新雪を踏む音と、軽やかな鈴の音。男にとっては、まるで冬の森の演奏会に参加しているような、そんなメロディとリズムの様だった。  そんな音楽と、わずかな温もりが、自分の体にあたってしまいそうなほど、その「女の子」に近付いてしまった男は、びっくりして目を開けた。 「~♪ あっ、 おじちゃん! こんばんは!」     
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