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男の膝の高さにも満たない小さな白い女の子は、振り返るやいなや男に挨拶した。男はきょとんと、にこにこ可愛らしく微笑む女の子を見つめて、夢の中にいる様にふわふわと、「こんばんは」と答えた。
女の子の足元には、その足の大きさと釣り合う大きさの足跡が新しく付いている。男は、全てが解決したと思って、「きみだったんだねえ」と呟いた。
「なにが?」
「この足跡だよ。きみが、いちばんのりだったんだねえ」
「ああ! ほんとだ」
女の子は納得した様に、腕を組んでうんうんと頷く。女の子は雪の色と真反対の、黒く長い髪を風になびかせた。彼女は髪の毛以外、全部白色に統一していて、暖かそうに着込んだコートやニット帽は、親からの愛を感じる。
「…きみは、なにをしているの?」
男は自然と、声を低くして訊いた。女の子はうさぎの尻尾の様にもこもこなニット帽を耳までひっぱって、寒そうに鼻を鳴らし、なんでもない様にふんとすまして言った。
「おうちに帰るんだよ」
わたしはえらいお姉さん、ということを証明するように、女の子はえっへんと胸を張った。
「…ひとりで?」
「うん! 向こうの森で、友達とかまくら作りしてたの、それでね、ひとりでおうちに帰るの」
「…そうか」
男はすこし表情を厳しくして聞いていたが、女の子の元気な笑顔を見て、にこっと微笑んだ。
二人は何にもなかったかのように、いつも通りの足取りで道を進んだ。
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