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いちばんのりの、女の子
その孤独な男は、住む所がありませんでした。
男はいつも、森の中、雪をいちばんのりで踏んでいました。
でも、今夜は…ちょっと違う。
***
大きなため息をついて、生きている事を示しているような白い煙を見つめたら、改めて森の暗さに気付かされた。
巨体を覆う茶色の毛皮を着た、森の熊と錯覚しがちな大男は、いつもの様に森を彷徨っていた。道に小花が咲く春も、若葉が揺れる夏も、葉が鮮やかに色づく秋も、雪が深く積もる冬も。彼は休む事なく、永遠に続く森の中、彷徨った。
「…?」
ざく、ざく、と、いつも一番に雪に後をつけていた男。男はいつも後ろを振り返らないが、何故か今日はくるりと、自分が歩いてきた道を振り返ってみた。
そして、彼はまた、地面を見る。
やっぱり、あった。
小さな小さな、小動物が付けたような足跡が。男の足跡の何分の1だろうか? 男はうんと唸って考えた。その足跡は、木々が生い茂る右の方向から伸びて、向こうの方向へ伸びている。まさに、男が今向かっているこの道だ。
人生で初めて、いちばんのりを抜かされた男は、驚きなのか不可解なのか、またため息をついて歩みを再開した。
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