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僕は椅子に腰かけて、机の上に分厚い冊子を広げる。
これは、僕なりにここでの仕事をきちんと覚えていくための記録であり、『死なない魔道兵』という兵器と過ごさなければならない状況に対する不満を唯一吐き出せる場所。一年分の日記はかけそうなそれに最初の一日目として今日のことを書いていく。
この日誌を十冊埋めても、アレが終わらなかったら逃げだそう。
幸いにも、金貨は十分ある。別の国へと逃げ、そこで新たな日々を過ごしていくことを選んでも問題ないくらいの量だし、十年待てば、警戒も薄れて国外へ逃げ出すことも十分可能だろう。
「……何を書こう」
はじめることの難しさについて考えながらも、ペンを走らせていく。アレの大まかな特徴、終わる条件、推定される難易度、今回アレが負った怪我やその経緯に原因。それに、十年目まであと何日なのか。
それらを記せばとりあえず本を閉じる。
「一週間、か」
『死なない魔道兵』が終わる条件を一人つぶやく。一見すると、単純に見えるその条件はあの脆弱性を考えれば、決してそうではないことぐらい、あれを見た以上嫌でも受け止めなければならない事実だ。
恐らく最初の一年はアレの脆さを痛感する一年となるだろう。
「……とっとと、終わらせよう。そうすれば、帰れるかもしれないから」
『守り人』という制度が必要無くなれば、もしかしたら帰れるかもしれない。
また、父さんと笑い合うことができるかもしれない。
また、母さんに叱られることができるかもしれない。
また、兄さんと一緒に本を読むことができるかもしれない。
そのためにも、僕はあの兵器を終わらせなくっちゃいけない。そう思いながら今後の生活に想いを馳せ、ベッドへと横たわった。
この最悪としか言いようのない一日が、いつか笑い話にできることをひそかに願いながら。
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