第二章 気付きの日

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 あの時と比べれば、書くことに少しは慣れてきたのかもしれない。そう思いながら昨日でちょうど五冊目が埋まった日誌を片づける。  もう、五年も経っていた。  まだ、アレを終わらせることはできていなかったけれど、もう半分耐えてダメなら逃げ出そせばいい。そう思えば、些か気が楽になる。それに、この五年で『死なない魔道兵』について僕なりにわかったことがあったから、決して無意味な五年間ではなかった。  まず、アレの一週間をリセットさせる『怪我』のラインは視覚的にわかりやすいものだった。関節を鳴らす程度なら問題はなく、いわゆる出血や骨折などといった目に見えて外傷を負ったとわかるものがリセットボタンとなる。  次に、アレの肉体は人間と比べれば非常に脆いことだ。初日でもうすうす感づいてはいたが、五年過ごしていけばなおのこと痛感させられる。道理で二千年もの間『守り人』という制度がなくならなかったわけだ。  なにせこけるだけで剥離骨折を起こし、軽くぶつけただけで皮膚が裂け出血するほど脆い構造だ。最初の一年は一日で何度も負傷させてしまっていたくらいだ。現に、一冊目の日誌には何が原因でどういう負傷をしたのかが書かれている日が山のようにある。  今になって思い出してもうんざりしてしまいそうだ。  もう少し、帝国側が丈夫なものに開発しておけば実践においても使い勝手がよかっただろうし、万が一の時に備えた廃棄も差し支えがなかったはずだと思うのだが、それは今更僕がどうこう言ったところで変わらないものだ。  あの脆い状態でもどうにか終わるまでの一週間を達成させなくてはいけない。  そもそも、人間に近く作りすぎている。そのおかげもあってなのか、体力面としては成人男性並みにあるしそれなりに器用だから雑用などは行えるだろうし、人の姿だから兵器だとわかりにくくして実践において使いやすくしたのかもしれないが、後々のことを考えれば、廃棄に至るまでの条件はもっとやりやすくっても良かったはずだ。  次いで疑問になるのは、アレが自分の脆さに対して鈍感かつ、妙に世話焼きなところだ。最近は僕が『自分でやりますから』と言えばなんとかこっちに任せてもらえるが、最初の一年はそれが通用しなかった。  何をしようとしても、アレは自分が終わることを願われている存在である自覚が薄い軽薄な笑顔で首を横に振る。 「だって、墓守君って十三歳かそこらでしょう? まだ成人とは言い難いじゃないか。こういうときは大人を頼ってくれていいんだよ」  そういって、己の手でやろうとして怪我をするという事を何度も、何度も繰り返した。
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