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怪我をしてしまうから、と言っても通用せず、アレは『大丈夫だよ』と根拠のないことを気の抜けた笑顔で言って無視しては怪我をする。それを数えきれないほどやったくらいだ。あの無意味なくらいに世話好きなのも、帝国が設計したというのだろうか。
確かに、人間に対して奉仕することを当然として受け入れるというのは王様の傍で人間のように振る舞いながら戦争の武器として忠実に動かすという面では問題ないのかもしれない。
だが、もう少し人間の言うことをちゃんと聞いてくれれば、僕より前の『守り人』だって楽ができたはずなのに。
二年目ぐらいに一度、怪我をしやすいのならいっそ全身を固定させて動けない状態にしてしまえばいいのでは、なんて安直な考えを実行に移した。さすがに少々不満そうにアレは文句を言っていたが、適当な嘘を使いながらなんとか説得して実行した。
結果としては、丸一日で背中一面が壊死したような床ずれをおこし、無意味なものとなった。それだけじゃなく、後始末だって大変だったし、他人の下の世話をするのは尋常ではないくらい疲労と嫌悪感が伴うものだった。
街には老人の介護や病院の看護師がそういう仕事も行う人がいるのを知っているが、ああいう職種を務められる人は尊敬に値すると思う。死体には慣れているが、こういうのは苦手だから僕にはできないだろう。
ああ、考えが別の方向にいっていた。とにかく、これは四年目の後半ぐらいから知ったことだったが『死なない魔道兵』は老いないわけではない。三日目までは二十代かそこらの肉体を維持しているのだが、四日目になると急に中高年ぐらいに加齢した外見となり、五日目となると初老ぐらいの外見になる。
こうなれば、行動させないようにするのは楽なのだが別の問題が出てくる。五日目ぐらいになると、急に外へと出たがるのだ。適当に天気が悪くなりそうだから別の機会にしようと言えばなんとか諦めてくれるものの、うっかり目を離したすきに外へと出られることだって少なくはない。
外へと出て、怪我をしなければ良いのだが老人となった体はすぐにこけてしまい、怪我をして帰ってきたことも少なくはなかった。そのたびに、俯いて何かもごもごと言っていたが、大方脱走に対する言い訳だろう。
結局一週間のやり直しが確定している以上は、何を言っているのかちゃんと聞こうと思ったことは一度もなかった。どうあっても、また同じ一週間を過ごさなければならないのは変わりなかったから。
そうこうして過ごしていきながらも、とうとう六日目を迎えることができた。
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