序章 昔話を読んだ日

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 墓守一族には、生者に対する姿勢として一つの信条がある。 『裕福な者も、貧しい者も、善人も、悪人も、死すれば皆安寧の国へと向かう魂を持っている。故に、その魂を肉に宿している生者は全て平等に扱うべき』  そんな、信条を抱えながらも墓守一族は長年、その信条に逆らった守り人の選び方を続けていた。  子を産むことができない女性や、障害を持つ人間、アルビニズムやメラニズムといった外見が多くいるヒトの中から見れば浮くような人を、ずっとずっと、選んでいた。  流石に、医療魔法の普及によって不妊や障害に対してそれなりの対応ができるようになった結果や、もともと一族の中でも信条から外れているという意見もあって、今ではそんな選び方はしていないけれど。  それがあれば、僕が『守り人』になることはなかっただろう。  でも、そうなると生まれつき視力が弱い従妹が『守り人』になっていたのだろうか。  まだ五歳である彼女がそうなることを考えれば、まだ良かったのかもしれないと考えてしまうお人好しな僕がいた。  たった五歳の少女が、一族の役目とはいえ八十年もの間、独りで過ごさねばならなくなるのを想像したら、なんだか嫌だった。  でも、だからと言って僕が『守り人』となり、戦争の時代に生み出された負の遺産『死なない魔道兵』を、たった一人で八十年間見張る役目を背負うことに納得できたわけでもなかった。  朽ち果てるときが来ればその役目も無くなるのだが、二千年という果てしない時を経てもなお、この役目が終わったことが無いことを考えれば、僕の代で終わるとは言い切れない。  でも、納得できなかったのはもっと違うのだろう。  一卵性双生児として産まれた僕は、兄と比べると少しだけ背が低かった。  それが理由となれば、いささか適当過ぎやしないかと感じて不満を抱くのも、仕方が無いだろう。  眠気は一向に来なかった。  思考が廻ればめぐるほど、目は冴えるばかり。  いっそのこと、考えるのをやめてしまえばいいのかもしれない、  だけど、そうしようとするたびに自分の中にあるこれからの不安が耳打ちされるように突きつけられる。  自分はいらない人間だから『守り人』になったのだ。  自分は用無しだから墓守の一族から追い出されるのだ。  自分はお荷物だからそれに相応しい『守り人』になるのだ。  誰が言ったわけでもない。自分で勝手に抱いた疑心暗鬼だった。  でも、父から次代の『守り人』は僕だと言われた瞬間に見て、聞いて、感じてしまったことが、脳裏に焼き付いて離れてくれない。
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