肆章 木霊の探し物

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 「ああ、そうだ。これに見覚えはござりませぬか」  箸をおいた芲埜祈がおもむろに袖に手を入れる。  「天井の板が少しずれていて、そこから落ちてきたんです。きっと家鳴(やなり)屏風(びょうぶ)のぞきの悪戯でしょうな」  そう言って握りこぶしをそっと開いた芲埜祈。  布でできた丸いボールのような何かがじゃりじゃりと音を立てて転がる。よく見てみれば、どこかで見たことのあるような生き物の顔が描かれていた。  猫みたいな顔にウサギのような垂れ耳。  それにはすねこすりの顔が描かれていた。  「お手玉だね。人間の子供のおもちゃだよ。三つくらいを同時に投げて遊ぶんだ」  「そうでしたか。私が見つけたのはこれひとつでした」  そう言ってお手玉に視線を落とした芲埜祈。
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