肆章 木霊の探し物

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 「なんだか寂しそうな顔がします。きっと────」  兄弟の行方が分からないからだろうなあ。  最後の言葉は無意識に呟いたのだろう、砕けた言葉でひとりごとのように小さな声だった。  そのたった一言が胸に突き刺さり離れない。  寂しそうに微笑む横顔が胸を締め付ける。  芲埜祈が魑魅の正体が弟たちであることを隠したのは、何かわけがあるのだと分かっていた。  だから、その正体を知ってしまった今、私が芲埜祈に「どうして黙っていたのか」と問いただしてよいのかどうか迷っていた。初めて会ったあの日、いつかは必ず自分から話すと言っていたから、それを待った方が良いのかと悩んでいた。  今までだって、芲埜祈を問いただす機会はいくらでもあったけれど、できなかったのはそんな迷いがあったから。
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