肆章 木霊の探し物

72/108
前へ
/464ページ
次へ
 「麻ちゃん」  今度は凛とした声で名前を呼ばれた。真剣な目が向けられる。  「ちょっとおいで。芲埜祈はここにいて」  その瞬間、カッと目頭が熱くなった。  恥ずかしいような申し訳ないような気持ちが沸き上がり、喉の奥が締まる。瞬きをしたら泣いてしまいそうで、唇を強く一文字に結ぶ。  「────三門さま、待ってください」  半分腰を浮かした三門さんを呼び止めたのは芲埜祈だった。顔を俯かせたまま静かに尋ねてくる。  「三門さまも麻どのも、もうご存知なのでしょう?」  え、と三門さんの顔を見れば、困ったように眉を下げる。  「三門さまは、おそらく初めの方から気付いておられましたよね」
/464ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1415人が本棚に入れています
本棚に追加