肆章 木霊の探し物

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 もっと他にも方法があるはず、そう言いかけて、はっと口を閉じた。  芲埜祈がその方法を調べていないはずがないのだ。そしてその方法が見つからなかったから、あの選択肢を選んだことはすぐに察することができた。  「これまで話せなかったのは、私の心が弱かったからです。『兄弟だ』と言ってしまえば、心が揺らいでしまう。躊躇して情けをかけることすなわち、彼らが苦しむこと。だからこの手で彼らを還す、そう心に決めた日から『あれは兄弟ではない』と己に繰り返し言い聞かせました」  芲埜祈は目を細めて少し俯いた。  「矛盾しているでしょう? あれは兄弟ではないと思っているのに、兄弟が苦しまないようにとこうやって旅を続けているのですから」
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