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苦笑いを浮かべたその瞳は、今にも零れ落ちそうなほどの雫を抱えていた。
けれどケヤキは瞬きをするたびに上を向き、その涙を堪えるのだ。
「「兄弟」と言うたった一つの言葉が、あどけない笑顔を、小さな掌の温かさを、私を兄さまと呼ぶ声を、ひとつひとつ思い出させるのです」
涙はやはり零れずに、堪えるように強く閉じられた瞼の裏に消えていく。
ああ。私は、私はなんて残酷なことをしてしまったのだろうか。
生まれた場所に還すということは、もう二度と会えないということ。それを分かっていて、ケヤキは誰よりも愛した存在を自分の手で還すのだと決意した。
その決意にどんな思いが秘められていたかなんて、考えなくても分かる。
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