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赤い目を狙うようにして鋭い突きを放つ。魑魅が素早い動きでそれをかわしたと思ったその瞬間、シュワッ────と何かが溶けるような音がした。
芲埜祈が刀を握る反対の手に何かを握っている、それを投げつけたのだ。続けて袈裟懸けに斬りかかり、掌の何かを魑魅に向かってもう一度投げつけたのが分かった。
砂のような細かな粒のそれは、よく知っているものだった。三門さんが参拝者へ授与している姿を何度か見たことがある。穢れや災いを払うとされる粗塩だ。
芲埜祈はそれで魑魅を祓おうとしているんだ。
金属をこすり合わせるような耳障りな鳴き声が響いた。魑魅が怒っている。ぶわりと爆発するように吹き出された靄が芲埜祈の体を吹き飛ばした。木の幹に背をぶつけた芲埜祈がうめき声をあげる。
それでもまだ魑魅は怒り狂って体を森の木々にぶつける。鋭利な刃物で切り付けられたように幹が真っ二つになる。葉の揺れる音が木々の悲鳴に聞こえた。
「っ、芲埜祈!」
声に反応したのか、魑魅が動きをとめた。
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