肆章 木霊の探し物

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 「麻どの、鳥居へ……奥へっ」  行き絶え絶えに何かを訴える芲埜祈。子供たちを背に隠したまま、金縛りにあったようにその場から動けなくなった。赤い目と目が合う、肌が粟立ったその瞬間、  薄紫色に染められた狩衣の袖がひらりと目の前を横切った。  「子どもたちを連れて鳥居の向こうへ! 鎮守の森には、汚れたモノは入って来られない!」  よく通るその声に、両頬を叩かれたように目が覚めた。勢いのまま小さな手を引いて走り、転がりこむように鳥居へ飛び込む。  後から不浄を貫く清らかな柏手が響き、はっと振り返った。  「ひふみ よいむなや こともちろらね しきる ゆゐつわぬ そをたはくめか────……」  力強く誇らかで、どこまでも清麗な声だ。  どす黒い瘴気が朗々とした言霊に包まれ、木漏れ日のような柔らかい光へと変わっていく。悪いものが良いものへ生まれ変わっていくような、悪いものがすべて流されていくような心地よさだった。
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