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「────おうえ にさりてへて のますあせゑほれけ」
柏手が魑魅を貫き、そして闇が弾けた。光が宙に飛び散る。目を細めてそれを見ていると、弾けた光が一ケ所に集まっていく。やがてそれは横たわる人の形になった。
髪の色も、目や鼻の形も、とてもよく似ていた。きっとその声も葉が揺れるような音と同じで優しいのだろう。芲埜祈と、同じなのだろうか。あの子は紛れもなく魑魅になり果てる前の芲埜祈の兄弟なんだ。
一歩、一歩と歩み寄り、芲埜祈はやがて走り出した。そばに膝をつき壊れ物を扱うように、兄弟を抱き寄せて頬を擦る。言葉はないけれど、それ以上のものが伝わってきた。優しく愛おしいものが溢れていた。
新緑色の瞳がかすかに開いた。
「兄さま……」
芲埜祈は兄弟の額に、己の額を合わせて微笑んだ。
「安心して眠りなさい。今度お前が目を覚ます時には、必ず兄さまがそばにいますからな。」
あどけない笑みを浮かべると、新緑色の瞳からふっと光が消えた。
黙って見守っていた三門さんがそばへ跪くと、開いたままのその瞼をそっと閉じてあげていた。
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