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アディード帝国建国の軌跡
「攻め込んで来たドリュオンの皇子を潰すのに手間取れば、反乱を起こす人間はまだ出てくるであろう。余がアディード帝国を建国して5年余り、人間の反乱が起きるのはあと数年先と考えていたが、ドリュオンの皇子が火種を持ってきてくれたわ。だが、ここで奴らを徹底的に叩きのめして見せ、反乱の芽を摘み取れば我が帝国の支配は磐石となる。これが建国の総仕上げと心得よ」
淡々と語るベノンの言葉に、この場にいる多くの者が重々しく頷く。
「なるほど、この事態はベノン様の建国スケジュールに折り込み済みだったようですな」
「ちっぽけな人間どもが俺たちに反乱をおこすことを? いくらなんでも、そりゃないだろ」
アーコイがベノンの言葉に納得したように呟くが、人間を見下しているガウロにとっては、そのちっぽけな奴らが自分たちに牙を剥くなど有り得ない事であって、それを予測するなどおよそ考えられない事だった。
「ベノン様がアディードを興す前の我々の故郷アディームは、国家はおろか、種族ごとの組織もろくにない混沌とした世界でした。そこへベノン様が国家という概念を持ち込んでから、まだ数年。妖魔の国家という枠に納まらぬ者たちが騒ぎを起こすのは予測できたこと。今回は人間という種族が抱えていた火種に火が灯いたのですよ」
「はっ、そんなもんかね。俺は元の弱肉強食の世界の方が分かりやすくて、性に合ってたぜ」
アヴィルが諭すように説明するが、ガウロはふてくされてそっぽを向いてしまった。
「そうよねぇ、ベノン様が建国の戦を始めてから、まだ5年くらいしかたってないのよねぇ」
カミーユが遠い眼をして呟く。元々妖魔たちのいた星域であるアディームと人間の世界がゲートで繋がったのが約5年前。アディードという国は、そのゲートを抜けた1人のデ魔人(ディヴァル)が人間の社会というものを見たことから始まった。その魔人(ディヴァル)こそ、アディード帝国の建国した魔王ベノンである。
「そう、まだ5年……余の戦はまだ始まったばかり。このクロムだけではない、ゲートで繋がったすべての世界を我が手にいれるのだ」
ベノンは己の野望を改めて宣言すると、これまでの戦いの道のりを語り始めた。
妖魔による国家の創設を志したベノンは、まず少数の魔人(ディヴァル)を率いてアディームで最も強靭な肉体を持つ龍人族と接触した。そして、龍人の長である龍翁ドレイクと盟を結び、自らの軍勢に加えた。
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