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新たな客 /彼女の望みと、求めるモノ
彼女がその店を見つけたのは、偶然だった。
高校からの帰り道、持病の心臓の痛みに襲われ、つい建物と建物の間の細い道の間に入ったのだ。
苦しんでいる姿を誰にも見られたくなかった。
心臓の痛みは大人しく耐えていれば、いずれ治まる。
薄暗い影に身を隠し、彼女は耐え続けた。
「はぁっ、はぁっ…!」
息を切らしながら顔を上げるも、その色は青白い。
ふと顔を上げると、道の奥に一軒の店を見つけた。
「あんな所に…お店が?」
彼女はゆっくりと立ち上がる。
何とか心臓の痛みは治まっていた。
壁に手を付きながら道を歩き、店の前までやって来た。
夕闇の中浮かび上がるその店は、どうやら小物や雑貨を扱う店らしい。
彼女は恐る恐る扉に手をかけた。
ベルの音が予想以上に高くて、驚いた。
「いらっしゃーい」
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃい」
店内には二人の青年と、一人の女性がいた。
青年の一人はいかにも最近の若者という感じで、もう一人は真面目な感じがした。
そして女性は外国の生まれだろう。
けれど日本語がとても上手だった。
「いらっしゃいませ。当店へようこそ」
「あっ、はい…」
「ゆっくりと店内をご覧ください。何か気になるものがございましたら、なんなりとお尋ねください」
「はい」
店内の奥から出てきた青年は、親切そうだった。
最初にいた三人に何か言うと、彼らは店の奥へと移動した。
彼女はちょっとほっとした。
あんまり接客トークで話しかけられるのが苦手だったからだ。
店内を見回すと、可愛く、キレイな小物が多い。
しかし窓際にはテーブルとイスのセットもある。
「あの、このテーブルとイスも売り物なんですか?」
「えっえっとですね。こちらは喫茶スペースとなっております」
何故か青年は引きつった苦笑を浮かべた。
「じゃあ何かいただけるんですか?」
「ええ、お望みとあらば飲み物とお菓子をお出しします」
「それじゃあお願いします。えっと、メニューは…」
「本日はハーブティーとスコーンになっております。よろしいでしょうか?」
「ええ、お願いします」
彼女がイスに近付くと、青年はイスを引いてくれた。
「あっありがとうございます」
「いえいえ。それでは少々お待ちください」
青年は笑顔で、店の奥へ行った。
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