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「姉さま……リュイーシャ姉様」
リオーネの声が薄暗い船室の中で心細そうに響いた。
「何? リオーネ。私はそばにいるわ」
船の揺れに合わせて左右に振られるハンモックの中でリュイーシャは返事をした。
「風が『さみしい』って――哭いてる」
「……そうね。私も聞こえるわ」
リュイーシャは手を伸ばして上掛けから出たリオーネの小さなそれを握りしめた。窓から差し込む薄明かりが、リオーネの顔色をいつもよりずっと青白く病的にさせている。
「お船もすごく揺れてる」
「そうね」
「姉さまは……怖くないの? お船、時々海の中に突っ込んでいるみたい」
その時フォルセティ号が不意に誰かに持ち上げられ、ぱっと手を離したかのように落下するのをリュイーシャは感じた。
海に船が叩き付けられたのか、地響きのような振動が襲ってきた。
同時に板が割れるような高い音。がしゃんがしゃんと積荷がぶつかりあう音。
何か動物がうなり声をあげるように、遠く引っ張るような重々しい音。
それは嵐に立ち向かうフォルセティ号が漏らした苦悶の呻きのようであった。
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