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フォルセティ号の見張りがエルシーア大陸最南端を視認したのは、翌日の15時過ぎのことだった。
「グラヴェール艦長。アノリアを視認しました。あと二時間ほどで着くと思います」
アドビスは吟味台の海図から顔を上げ、報告に来た副長シュバルツに鋭い視線を向けた。正確にいえば、シュバルツに肩を揺さぶられたせいで目を開けたのだが。
艦長室をリュイーシャ達に使わせているため、アドビスの居場所はメインマスト前の海図室になっていた。食事もここに運ばせるし、眠くなれば海図を広げた吟味台に頭をのせて睡眠をとる。
シュバルツは黙ったままアドビスの前に白いカップを置いた。
「料理長が豆を挽いてくれたので、リラヤ茶をお持ちしました」
「……ありがとう」
アドビスは香ばしい香りに誘われるまま、カップに手を伸ばしリラヤ茶をすすった。
どんよりとした思考が茶の苦味と香りで霧のように晴れていく。
茶を飲みながらアドビスはシュバルツを見上げた。
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