54人が本棚に入れています
本棚に追加
/452ページ
「他に報告は?」
「今の所、何も」
そっけなく副長は返事をした。
「そうか。では、見張りに警戒を怠るなと伝えてくれ」
ぴくりと、シュバルツの眉が動いた。
「レナンディ号を襲ったものたちが、まだこの海域にいるとお考えなのですか?」
何かを恐れるような、低く抑えた声だった。
アドビスはシュバルツの問いにすぐには答えず、黙ったまま、白い湯気をあげるリラヤ茶に視線を落とした。
茶褐色の液体がカップの中で踊る様を見つめ、やがて独り言のように言葉を吐いた。
「そうかもな。レナンディ号が何者かに襲われ沈められたことは確かだ。だがこの海域は、エルシーア海賊のひとり『月影のスカーヴィズ』が、500人の手下を従えて闊歩している、いわば彼女の庭のようなもの――」
アドビスは右手をあげて重いまぶたをさすった。
最初のコメントを投稿しよう!