【25】アノリア

3/18
54人が本棚に入れています
本棚に追加
/452ページ
「他に報告は?」 「今の所、何も」  そっけなく副長は返事をした。 「そうか。では、見張りに警戒を怠るなと伝えてくれ」  ぴくりと、シュバルツの眉が動いた。 「レナンディ号を襲ったものたちが、まだこの海域にいるとお考えなのですか?」  何かを恐れるような、低く抑えた声だった。  アドビスはシュバルツの問いにすぐには答えず、黙ったまま、白い湯気をあげるリラヤ茶に視線を落とした。  茶褐色の液体がカップの中で踊る様を見つめ、やがて独り言のように言葉を吐いた。 「そうかもな。レナンディ号が何者かに襲われ沈められたことは確かだ。だがこの海域は、エルシーア海賊のひとり『月影のスカーヴィズ』が、500人の手下を従えて闊歩している、いわば彼女の庭のようなもの――」  アドビスは右手をあげて重いまぶたをさすった。
/452ページ

最初のコメントを投稿しよう!