【25】アノリア

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 リュイーシャはさり気なく乱れた髪を直す振りをしながら、アドビスが視線をやる後方の海を覗き見た。  アノリア港を形作る湾の先端――白亜の崖となっているそこへ一隻の船が通り過ぎるのが見えた。  それは殆ど崖の後ろに隠れてしまっていたので、リュイーシャに見えたのは冴えた青い色をした帆の一部だけだった。  アドビスは一瞬岬を通り過ぎたあの船を見ていたのだろうか。  リュイーシャは確信が持てぬまま、再びアドビスの方へ向き直った。 「どうして、はっきりとお聞きにならないのですか?」 「……何……?」  訳がわからないといったように、アドビスの視線がリュイーシャを捉える。 「アノリア港に着いたら、返事をする約束でした」  リオーネが体を強ばらせるのをリュイーシャは感じた。  じっとしててね。リオーネ。  話は私がするから。  妹を安心させるために、リュイーシャはその顔を覗き込んで微笑んでみせた。  一方アドビスは口元をきつく結んだまま、彼らしくなく緊張しているようだった。
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