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リュイーシャの声は掠れた。
アドビスはきっとリュイーシャの決意をわかっていたのだろう。
二日前にふたりきりで話したあの時に。
「だが貴女に頼みがある」
アドビスの長い手がリュイーシャの肩を覆うように掴んだ。
アドビスは長身を折り曲げて、リュイーシャとリオーネを抱きしめる。
高ぶった感情を辛うじて抑えているのか、背中から聞こえるアドビスの声も掠れていた。
「僅かばかりだが、当座の生活に必要なものをコーラル夫人が用意してくれている。それを必ず持っていって欲しい。だが、リュイーシャ、リオーネ。気が変わったらいつでも船に戻ってくれ。フォルセティ号は明日の15時にアノリアを出港する」
アドビスが名残惜しそうに腕を解いた。
「アドビスさま。私、本当はお別れしたくない。でも……姉様の気持ちもわかるの。リュニスから遠く離れた土地にいくのはこわい」
リオーネの瞳は涙でうるんでいた。
リュイーシャもまた、思いがけないアドビスの言葉に、胸がしめつけられるような苦しさを感じていた。
私だってお別れしたくない。
唇まで出かかったその言葉を、リュイーシャは未練がましい己の心と共に飲み込んだ。
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