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◇◇◇
それから二時間後。
リュイーシャとリオーネは、食料を調達するため上陸するハーヴェイたちの班と一緒に、雑用艇でアノリア港の桟橋へと向かっていった。
「見送りはされないのですか?」
外は黄昏れており、窓のない海図室は薄暗くなっている。明かりもつけず、ひとり航海日誌のページを繰るアドビスへ、シュバルツが静かに声をかけた。
「もう済ませた。二時間前に」
「そうですか」
乾いた声でシュバルツが答える。
「当直に見張りを怠らないように言ってくれ」
日誌を静かに閉じて、アドビスが顔を上げた。
「それは海上ですか? それとも、港の方ですか?」
「どっちもだ」
アドビスはぶっきらぼうに返事をして席を立つと、疾風のように海図室から甲板へと出ていった。後に残されたシュバルツは、やれやれと肩をすくめ冷笑を浮かべた。
「風は金鷹の翼を擦り抜けてしまったか……残念だったな」
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