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「……何?」
リュイーシャは視線を海から内陸へ転じた。低い山の稜線沿いに島民の住居が連なっている。風の被害を最小限度に抑えるため、すべて岩山から削り出した石を組んで作られた平屋である。
青白い月の光に照らされたそれらは、真夜中という事もあり、静かな眠りについているようであった。
誰かに呼ばれたような気がした。
目を閉じ耳をすますと、ぬらりとした風に乗って声が聞こえてきた。
『……けて。誰か』
『助けて』
『島長! 巫女さま!』
リュイーシャは神殿の階段を急ぎ駆け降りた。足にまとわりつく衣の裾を右手で掴み、カイゼルのいる館に向かって夜道を走った。
見えたのだ。
西の浜の海に軍人達が乗ってきた小舟がいくつも浮かんでいるのが。
それらは沖に錨泊している軍艦に向かって漕ぎ出していた。
『どこに連れていく気だ!』
『放して! 子供を、子供を返して』
生ぬるい風はクレスタの島民達の声を――恐慌と悲鳴を運んで来たのだった。
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