54人が本棚に入れています
本棚に追加
/452ページ
「そうはいくかよ。元はといえば、あんたが俺の船を金鷹の船とぶつけなければすべては上手くいってたんだ! ロードから逃げおおせて、今頃は東方連国に向かって順調に航海してるはずだった。
あんたらだって、好きな港で下ろしてやるつもりだったんだぜ? それなのに、俺を……俺を騙しやがって! だから、俺が今まで受けた苦しみを、お前に味わわせてやる。因果応報って知ってるか? 人を騙した人間は、遅かれ早かれその報いを必ず受けるって言うんだよ!」
シグルスは短刀をかざしリュイーシャへと斬り付けてきた。
刃は咄嗟に顔を伏せたリュイーシャのフードを切り裂き、同時に月影の光を宿す長い髪の一部をも無惨に引き千切った。
細かな金の筋が火の粉のように一瞬煌めき夜空に舞う。
リュイーシャはリオーネの頭を抱え込むように抱き締め、その場に膝をついた。
――大丈夫。
この男は私達を殺せない。
だって、生きたままロードの所へ連れていかなければならないもの。
「さあ、皇子様がおまちかねだ」
シグルスの黒い革手袋をはめたそれがリュイーシャの腕を掴んだ。
そのまま容赦なく上に持ち上げられる。
「……離して」
乱れた髪を振り払い、リュイーシャは顔を上げた。目の前にはシグルスの引きつった笑い顔があった。
「そうはいくか。虫一匹殺せないようなその綺麗な顔に、俺はもう騙されないからな」
シグルスはリュイーシャの腕を強引に掴んだまま、港へ向かうために後方を振り返った。
最初のコメントを投稿しよう!