54人が本棚に入れています
本棚に追加
/452ページ
「……がっ!」
その時、シグルスの体が持ち上げられるように空中に浮いた。
右目の傷跡が目立つ顔が、がくんと後ろへのけぞったかと思うと、シグルスはそのまま後方へと吹っ飛んだ。リュイーシャとリオーネはそれを呆然と見つめていた。
「えっ……」
シグルスは前方に立っていた、黒いつば広の帽子を被った何者かに、蹴り飛ばされたのだ。
「あんたも沢山人を騙して裏切ってきたじゃない? これはその報い」
シグルスの体は路地裏の冷たい土の上に、仰向けに倒れていた。
両目は虚空を睨み付けるように見開き、口からは白い泡がこぼれている。
「ここにいては危険。あなたたち、私と一緒に来て」
美しい脚線美を披露してシグルスをたった一撃で蹴り倒した人物は、リュイーシャに向かって声をかけてきた。リュイーシャより少し背が高いが、体つきは思ったより華奢で丸みを帯びている所から女性だというのがわかる。
帽子のつばを持ち上げた白い指は細く、その影から現れた瞳は夕闇を思わせる高貴な紫色をしていた。
「さ、早く」
リュイーシャはうなずいた。
彼女が何者であるかはあとで明らかになるだろう。
どのみちここにいてはリュニス兵に見つかってしまう。
リュイーシャはリオーネの手を掴み、自分達を助けてくれた不思議な人物の後を追って駆け出した。
最初のコメントを投稿しよう!