54人が本棚に入れています
本棚に追加
/452ページ
◇◇◇
どこをどんな風に走ったのかは覚えていない。
入り組んだ路地裏をいくつも通り、リュニス兵に出くわすと、リュイーシャ達を助けてくれた帽子の女性は、溜息が思わず出るような、鮮やかな足技で彼等を叩き伏せた。
「随分お強いんですね」
走りながらリュイーシャは帽子の女性に訊ねた。
「あなた、こんな状況でよくそんな話ができるわね」
帽子の女性は息一つ乱さず、艶やかな紅を引いた唇を震わせ笑みを浮かべた。路地裏では薄暗くて顔がよく見えなかったが、月明かりがほのかに照らす港に近付いたせいか、女性の白い面がちらりと見えた。
冴え冴えとした三日月をそのまま横顔にしたような、怖気立つ程の美女だ。
首の後ろで一つに束ねられた、夜の海に光る波濤のような長い銀の髪が、彼女をまるで水晶細工のように気高く美しく見せていた。
最初のコメントを投稿しよう!