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島で何か恐ろしい事が起こっている。
嫌な予感は確信へと変わった。
湿った風が海から吹いてくる。
じっとりと重いそれは、島民たちの声を徐々に強まらせ、数を増しながらリュイーシャの耳へと訴えかけてくる。
風は様々なものを運ぶ。
まずは形のない『先触れ』を。
そして『音』を、『声』を――『香り』を。
先程歩いた白い地面の一本道を戻り、リュイーシャはカイゼルやリオーネが住まう島長の館までたどり着いた。
夜の静寂の中で仄かな花の香りが辺りに漂っている。
館の門扉のそばに対で植えられたシオンの木が、子供の拳ぐらいの大きさの花を幾つも咲かせて見頃を迎えていた。
シオンは黄昏の時間になると角笛の形に似た花を咲かせ、早朝には萎んでしまう。別名「夜の到来を告げる花」と言われる島の自生種だ。
その柔らかな香りでリュイーシャは昂った心が少し落ち着くのを感じた。
それは月光に照らされ青鈍色に光る島長の館が、ほんの数十分前、後にした時と同じように、静寂に包まれていたせいなのかもしれない。
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