【29】月下の邂逅

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アノリアの市街地を抜けて潅木がまばらに生える野原まで来た時、帽子の女性は立ち止まって西の海を指差した。 「あの湾に私の船があるの。あともう少しいけば着くから」 「……」  リュイーシャは頷いた。  ずっと走り通しだったので息が切れかけていた。 「リオーネ、大丈夫?」  額に浮いた汗を拭い、リュイーシャは妹の顔を覗き込んだ。 「大丈夫。姉様。わたし、走るの好きだもん」  リオーネの頬は熟れた林檎のように赤かったが、リュイーシャほど息を切らせてはいなかった。 「そうね。あなたは風のように浜を駆ける子だもんね」  そういうとリオーネは口元をすぼめリュイーシャを上目遣いで睨んだ。 「そんなことないもん! 私だっていつまでも子供みたいに、かけっこばっかりしないもん!」 「はいはい。あなたもきっとお姉さんのように綺麗な女になる。子供じゃないなら、いう事をきいて私の後をついてくるの」  帽子の女性は身を屈めてリオーネに微笑んでみせた。 「う、うん……」  リオーネは戸惑いながら、リュイーシャの手を握りなおした。
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