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アノリアの市街地を抜けて潅木がまばらに生える野原まで来た時、帽子の女性は立ち止まって西の海を指差した。
「あの湾に私の船があるの。あともう少しいけば着くから」
「……」
リュイーシャは頷いた。
ずっと走り通しだったので息が切れかけていた。
「リオーネ、大丈夫?」
額に浮いた汗を拭い、リュイーシャは妹の顔を覗き込んだ。
「大丈夫。姉様。わたし、走るの好きだもん」
リオーネの頬は熟れた林檎のように赤かったが、リュイーシャほど息を切らせてはいなかった。
「そうね。あなたは風のように浜を駆ける子だもんね」
そういうとリオーネは口元をすぼめリュイーシャを上目遣いで睨んだ。
「そんなことないもん! 私だっていつまでも子供みたいに、かけっこばっかりしないもん!」
「はいはい。あなたもきっとお姉さんのように綺麗な女になる。子供じゃないなら、いう事をきいて私の後をついてくるの」
帽子の女性は身を屈めてリオーネに微笑んでみせた。
「う、うん……」
リオーネは戸惑いながら、リュイーシャの手を握りなおした。
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