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「岬の先を見てご覧。船がいるのがわかる?」
帽子の女性は冷静な口調で、アノリア港と奴隷専用港を隔てている西の岬を指差した。
「見えます。あの船は……ロードが乗っている『銀の海獅子』号」
リュイーシャは眉間をしかめた。
クレスタにかの船を招き寄せてしまったのは自分の落ち度。
忘れようにも忘れられない船である。
クレスタを離れた夜のように、『銀の海獅子』号はその巨体を闇色に染めていた。
「ロードの『銀の海獅子』号はアノリア港を砲撃できる距離で停船している。きっとアノリアの住人の命をたてにして、アドビスを脅したんだろうね」
「そんな……」
リュイーシャは俯き頭を垂れた。
クレスタの民をロードの手から救えなかった時と同じ無力感が、じわじわと胸中に広がっていくのがわかる。
リュニス第二皇子ロード。
あなたは私の大切な人達ばかりを奪っていく。
リュイーシャは熱くなった目の奥のものを拳で振り払い顔を上げた。
「ごめんなさい。私、あなたとは一緒に行けません」
灰色のマントを翻したリュイーシャは帽子の女性に背を向けた。
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