【30】月影のスカーヴィズ

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「待って」 「やめて、離して」  だが女性の白い指はリュイーシャの手首を握りしめて離さない。  しかも反対に女性の方へ手を引っ張られ、体勢を崩したリュイーシャはその場に思わず座り込んでしまった。 「リュイーシャ姉様……」  リオーネが心配げに近付き、リュイーシャの肩を抱く。  リュイーシャは両手を地につけたまま、なす術もなくうなだれた。 「巻き込みたくなかったからアドビス様の船を降りたんです。それなのに、私達のせいでアドビス様が、ロードの船に連れていかれてしまったなんて。私は行かなくてはならないんです……でないと、私……」 「リュイーシャ」  帽子の女性は小さく溜息をついた後、そっとリュイーシャの隣に膝をついた。星空のように煌めく紫の瞳が、リュイーシャの涙に濡れる青緑の瞳を覗き込む。 「アドビスがあなたの姿をみれば、きっと嵐のように激怒する」  リュイーシャは惚けたように帽子の女性の顔を見つめていた。
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