【30】月影のスカーヴィズ

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「……激怒?」 「そう」  女性は銀の髪を揺すって微笑んだ。  同じ銀の髪のせいかもしれない。目の前の女性が一瞬、幼い頃の記憶に残る母ルシスの微笑とだぶって見えた。  彼女は、汗と涙ですっかり乱れてしまったリュイーシャの髪を、細長い指で優しく梳りながら諭すように話しかけてきた。 「そう。あなたがロードの元へ行ったら、アドビスはきっとあなたのことを嫌いになるわよ」 「それは……どうして……」  女性の唇が一瞬歪んだように見えたが、彼女は夕闇色の瞳を細めたまま優し気な微笑を浮かべていた。 「あなたのことが大切だからよ。私の知っているアドビス・グラヴェールは、アノリア港を吹き飛ばすという稚拙な脅しぐらいじゃ屈しない。寧ろ、そう言ってきたロードの使者を捕らえて、反対にその命と引き換えに、アノリアから『銀の海獅子』号を追い払っているはずだわ」  リュイーシャはぐっと手を握りしめた。  ざらざらした土が指の間に入って痛みを伴ったが、リュイーシャは構わず手に力を込め続けた。
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