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低い石垣で囲まれたその建物は、島民の住居と同じように岩山から切り出された石で組まれた平家である。けれど島を訪れた要人の宿泊所にもなっているので、母屋の裏の中庭には小さな別邸がある。
この度島を訪れた商人達は母屋の客室に泊まり、リュニスの第二皇子ロードは別邸で休む事になっていた。
生温い風はリュイーシャへまだ島民の声を運んでくる。
泣き叫ぶ赤子の声が唐突に響き、頭が締め付けられるように痛んだ。
リュイーシャはこめかみを抑え、そろそろと母屋の格子扉へと近付いた。
黙って耳をそばたてる。けれど館からは何の音もしない。
――父様はまだ、島で起こっている異変を知らないのかも。
もっとも、『声』さえ聞こえなければ、リュイーシャだってそんなこと思いもせずに眠りについていた。
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