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『お前が守るものなんて、もう何もないんだよ』
ロードは嘲るように言い放った。
その言葉の意味を、島で起こっている異変を、リュイーシャは風の伝えてきた心象ではなく己の肉体の眼でついに見た。
ロードは鉄の枷のようにリュイーシャの手首をつかんだまま、そしてシグルスという黒服の眼帯の男はリオーネを肩に担ぎ上げて、昼間上陸してきた西の浜へと歩いていった。
弓なりに反った形の西の浜は、恐れと不安で青ざめた数百人の島人と、夜の影と一体になったような、リュニスの黒い軍服に身を包んだ男達で溢れていた。
真夜中の暗き空がそこここと無気味な赤い光に染まっている。
島民に恐怖心を煽らせるためか。山の稜線にそって建てられた、彼等の慎ましやかな家屋から白い煙と火の粉が舞い上がっている。
リュイーシャは島民達の『なぜ』と問う声が、頭の中いっぱいに響き渡るのを聴いて唇を噛みしめた。
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