3人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
6・ぶつかり合う二人
「くっ……」
マクシムスがぎりっと歯を食いしばり、剣を握り締めて相手を睨んだ。コロッセウムが、満足気に笑う。
「いい目だ。酒場でうだっているより、よっぽどいい。マクシムス。お前は戦いが本質の男だ。俺と同じように!」
「この野郎──!」
怒り狂ったマクシムスが、足払いをかけようとした。しかしその一瞬前に、コロッセウムは斜め後ろに、跳ねるように飛んで避けた。
一方、パンテオンの腕の中で、ヴェヌスは恥ずかしそうに震えながらも、彼の目をじっと見た。
彼女の大きな黒い瞳が、うるんで泣きそうになっている。
「パンテオンさん……私、私も……いつも優しいあなたのことが……」
そこまでを言い言葉を詰まらせて、ヴェヌスは目を伏せ、パンテオンの胸の中に飛び込んでくる。
もうそれ以上の言葉は、二人にはいらなかった。
「ヴェヌスちゃん!」
「パンテオンさん!」
混雑する広場の中で、二人は互いにひしと抱きしめあった。もはや世界は二人だけのものだった。
戦士の男二人の方は、まだ戦っていた。
コロッセウムが、繰り出されるマクシムスの剣と足蹴りを背後に飛んでかわし、戦車の端に飛び移る。
「戦車の操縦がお留守だぜ。マクシムス!」
コロッセウムはからかうように言い残すと、戦車の上から、広場に出ていた屋台の屋根の上に、ひらりと飛び移った。
マクシムスはハッと振り返る。
彼の気がついたときには、巨大なオベリスクが戦車のすぐ前に迫っていた。
急いで皮の手綱を握ったが、馬の手綱はすでに切られていた。コロッセウムの仕業だ。戦っている最中に、こっそり切られていたのだ。
「しまった!」
高速で走っていた戦車は、急に止まることは出来ない。
列柱廊にあった石作りの尖塔、オベリスク。
マクシムスはとっさの判断で、馬たちを戦車に縛る紐をほどいた。
最初のコメントを投稿しよう!