6・ぶつかり合う二人

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6・ぶつかり合う二人

「くっ……」  マクシムスがぎりっと歯を食いしばり、剣を握り締めて相手を睨んだ。コロッセウムが、満足気に笑う。 「いい目だ。酒場でうだっているより、よっぽどいい。マクシムス。お前は戦いが本質の男だ。俺と同じように!」 「この野郎──!」  怒り狂ったマクシムスが、足払いをかけようとした。しかしその一瞬前に、コロッセウムは斜め後ろに、跳ねるように飛んで避けた。  一方、パンテオンの腕の中で、ヴェヌスは恥ずかしそうに震えながらも、彼の目をじっと見た。  彼女の大きな黒い瞳が、うるんで泣きそうになっている。 「パンテオンさん……私、私も……いつも優しいあなたのことが……」  そこまでを言い言葉を詰まらせて、ヴェヌスは目を伏せ、パンテオンの胸の中に飛び込んでくる。  もうそれ以上の言葉は、二人にはいらなかった。 「ヴェヌスちゃん!」 「パンテオンさん!」  混雑する広場の中で、二人は互いにひしと抱きしめあった。もはや世界は二人だけのものだった。  戦士の男二人の方は、まだ戦っていた。  コロッセウムが、繰り出されるマクシムスの剣と足蹴りを背後に飛んでかわし、戦車の端に飛び移る。 「戦車の操縦がお留守だぜ。マクシムス!」  コロッセウムはからかうように言い残すと、戦車の上から、広場に出ていた屋台の屋根の上に、ひらりと飛び移った。  マクシムスはハッと振り返る。  彼の気がついたときには、巨大なオベリスクが戦車のすぐ前に迫っていた。  急いで皮の手綱を握ったが、馬の手綱はすでに切られていた。コロッセウムの仕業だ。戦っている最中に、こっそり切られていたのだ。 「しまった!」  高速で走っていた戦車は、急に止まることは出来ない。  列柱廊にあった石作りの尖塔、オベリスク。  マクシムスはとっさの判断で、馬たちを戦車に縛る紐をほどいた。
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