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4・盛り上がる街
ついに当日。
ローマ・アンティクア中の住民が二つの大イベントに連れだって押しかけ、家々はがら空きになった。
いつもにぎわう広場も市場も、今日はすかすかだ。
パンテオン(万神殿)も、テルマエ(公衆浴場)も、ヴェヌス神殿にも、ごくわずかしか人が来ない。
パンテオンはどちらも見に行かなかった。少数だけれど、祈りの人が来るかも知れなかったからだ。それはヴェヌスも同じだった。けれども、彼らのいる中央広場まで、二つのイベントの音は異様な熱気に満ちて聞こえてきた。
観客の熱狂的な歓声。壮大な生演奏の音楽。ときおり、大勢の拍手がしたり、歓声でどっと盛り上がったりしている。
じりじりとイベントの終わりを待つパンテオンは、気が気ではなかった。
(今日の勝負、一体どちらが勝つのだろう……。不満の溜まっているマクシムスが、あのまま引き下がるとは思えない。強気のコロッセウムはどう出るか)
夕刻になって、夕日が街を赤く染め始めた。ようやく二つのイベントが終わったらしい。
まず、大勢の観客が円形闘技場から出てきた。皆口々に興奮している。観客の自然な帰り道の流れで、大勢が中央広場に集まってきた。
広場の中央には、グラディエーター(剣闘士)姿の男、コロッセウムが立った。
威風堂々たる姿で、観客に手を振っていた。
「みんな、今日は私のために集まってくれてありがとう。今日の私の勇士は、ローマの歴史に残ることと思う。ローマに栄光あれ!」
ローマ・アンティクアに栄光あれ! ローマ・アンティクアに栄光あれ!
興奮した観客が拍手をし、中央広場が沸き立った。
観客を従えて満足げなコロッセウムは、まるで皇帝のようだ。
そのときだった。
広場に向けて、デクマヌス(中央通り)を通り、一台の大型戦車が疾走してきた。
金銀の華やかな装飾の戦車だ。四頭の馬たちが、命がけで引いている。相当のスピードだった。
戦車の上には、武将のようにマクシムスが立っていた。
怒れる鷹のような厳しいまなざし。完全武装になて、緋色のマントをひるがえし、見事な手綱さばきだ。
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