埃男

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 今日俺は、友人に金をだまし取られたと知ったのだ。それも、一回だけじゃなかった。数回騙されていたのだ。気付かなかった。 「助けてくれ」と頼まれて、友のためならと手を貸した。自分が苦しくなるのも顧みないで貸してしまったのだ。  もともと、金はあるほうじゃなかった。短大を卒業して入った会社を二年で辞めて、そこからフリーター生活をしていたものだから。最初はそんなに困ってはいなかった。  けれどぼろいアパートで一緒に暮らしていた母さんが死んでから金が無いということが発覚した。母さんは詐欺にあっていた。弁護士を雇う費用もないし、相談相手もいない。貯金はすっからかんだった。それなのに助けを求められたら断れなくて、助けたいと思ってしまって、無理をした。  結果は一文無しだ。なんてくだらないんだろう。振り返れば振り返るだけ、人生がみじめに思えてくる。  子供のころから振り返る。勉強は酷くできなかったわけではないが、そこまで抜きんでたわけでもない。気付いたらいじめられていて、でも女手一つで育ててくれた母さんに心配をかけたくなくて黙っていた。行きたい短大に行ったら何か変わるかなと思ったが、そこでもパッとしなかった。  勇んで入社した会社ではせっかくとった資格を生かしてもらえず、雑用ばかりの毎日で。最後は上司に尻尾を切られた。もしかしたら最初から使い捨てるつもりだったのかもしれないと思うほど、ぞんざいな扱われ方だった。ほどなくして母さんも死んだ。  何もない。何もなくなってしまったのだ。俺を見る目は皆俺を馬鹿にして笑っているように感じる。自然と猫背が身についていた。でも今はだらんと仰向け、背筋も伸びている。見上げた空は暗くて青い空っぽだった。  俺と同じに空っぽだった。そうやってしばらく空を見上げていたら、いつの間にか眠ってしまっていたらしかった。そして、起きたときにはもう、俺の身体は動かなくなっていたのだった。
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