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とにかく俺はアキハバラを徘徊して頭の中の罪悪感と悪夢を追い払おうとしていた。
しかしだ・・・
あの女、カーラが現れたんだ。
漆黒のロングヘアに褐色の肌、生々しい喉元の傷・・・そして暗い目。
その時から俺の運命は決まっていた。
くしくも2月14日、バレンタインデー。
古いオーディオ機器を扱うショップから出ようとしたときだ。
道路のむこう側に・・・彼女の姿を確認できた。
隠れる様子もなくむしろ堂々と俺を見つめていた。
日本に来ていたとは・・・ずっと尾けられていたか。
アルコールで感覚が鈍っていたにしても俺も落ちぶれたもんだ。
カーラ・・・彼女は俺と以前付き合っていた。
彼女もまた同業者だった。
唯一信用できる相棒として仕事を共にし、愛を交し合った。
一年前の2月14日。
以前、標的にした武器商人の残党からの報復に遭い爆弾の破片が彼女を
覆った。俺は間一髪逃げ延びたものの、彼女は全身と喉元に傷を負った。
瀕死の重傷・・・声帯を失ったうえに流産しちまった・・・
俺の子供をだ・・・ちくしょうめ!
俺たちは道路を挟んでしばらく見つめあった。
一年前のあの日、彼女は全てを失った。
死んだ目をして俺を見つめている。
なぜだ・・・なぜこの地に?
しかも紙の手提げ袋を持っている。
俺の失態のことを知って追って来たか?
まさか・・・俺の暗殺指令でも出ていて・・・
いや、カーラを知っている。裏切る女じゃない。
俺はゆっくりと歩き出した。
カーラも俺のあとに続く。
もし、仮に彼女に仲間がいて俺を・・・
注意深くまわりを見ながら歩いた。
この街で面倒は起こさせない。
俺の好きなアキハバラ・・・
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