僕は、あの時、思ったんだ。

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「俺は脇役じゃねぇぞ」  ナイフを片手に今日の講演内容をあらかじめ知っていたであろう暴漢が闖入したのだ。 「お前が輝ける世界だと? そんなわけないだろう。ここで死ぬんだよッ!」  哲学者は微笑んだけで一切の抵抗をしなかった。 「不幸になれやッ!!」  カメラへと彼の鮮血が飛び散り、一大事だと画面が切り替わる。  そうして彼は死んだ。  誤解はとけなかった。  そう思う。  もちろん、僕の中でも、いまいち理論が飲み込めずに誤解はとけなかった。  ただどうしても哲学者の最後の微笑みが忘れられず、その日から必死で勉強して学位を取った。そののち科学者になった。もちろん専攻は物理学だ。そう。多元宇宙論の謎を解明したいと思ったんだ。そしてあの哲学者の言葉の意味を知りたかったんだ。  そうして僕は多元宇宙論の確たる証拠を見つけて証明する事ができたんだ。  そののちノーベル賞までもらってしまって。  そして、今思うんだ。  意識がある自分がこの宇宙での主人公で、みんなは自分を生かしていた恩人なんだと。  だからあの時、テレビで見た死んだ哲学者に言いたかった。  ありがとう。  と。  そして、どこか別の宇宙で輝いた哲学者が、こう返してくれた気がした。  こちらこそ、ありがとう、と。  そして。  僕の誤解はとけた。
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