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「いただきます」
「いただきまーす!」
秋瀬家の居間に声が響く。
その声は一日の始まりであり、命への感謝だ。いただきますの言葉とともに、皆、奈緒の作った料理へと手を伸ばす。
「今日もいつもと同じ。卵焼きとお魚と、色々でーす! あ、魚は、メバルのいいのがあったから煮つけにしてみたけど、どうかな?」
奈緒の不安そうな、それでいてどこか期待するような目線に悠馬は一向に気を向けない。それよりも、目の前に鎮座しているメバルの煮つけ。その瞳の美しさに心が奪われていたのだ。それでも湧き上がる本能にあらがう術はなかったのだろう、おそるおそる赤い皮に箸を突き立てる。
すると、その皮の隙間からは真っ白な身がほこほこと湯気をたてながら現れた。悠馬は思わずそのままメバルを口の中に放り込んだ。瞬間、あふれ出る煮汁と魚のうまみ。かみしめるほどに増していく美味さは、魚だけでなく調理法も相まってのことなのだろう。
「なんていうか、ほんと奈緒は料理がうまいよな。このメバルも最高だ」
「本当!? よかったぁ」
「ほんとですよ、奈緒さん。私、奈緒さんが料理ができることがうれしくてうれしくて」
そう言いながら、リファエルは手を目じりにあててさも泣いているような仕草をする。いきなりの行動に奈緒はどぎまぎしながら、どこか照れたように言葉を返した。
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